熱帯夜

女として女に愛され愛したい

【映画感想】『キャロル』

あぁ…こんな恋愛映画だって分かってたら。

私にとっては身近な女性への憧れ、惹かれ合う過程がこんなにも美しく正確に描かれた映画がこの世に出現したということに感動した。テレーズを演じるルーニー・マーラが言うように、「これは同性愛の物語ではなく、ふたりの人間が自然に恋におちて、お互いを必要とする物語」であることには間違いない。

ひとことも、レズビアンだ同性愛だバイセクシャルだという単語は出てこない。ただ純粋にひとりの人間に惹かれて恋におちていく美しい物語。

2人の間に障害があって、何が正しいのか自分でも分からなくとも、自分の気持ちには嘘はつけなくて、優先順位を考えればどうしようもないのも当然で。最後までバッドエンドなのかハッピーエンドなのか予想がつかなくて、苦しかった。

原作の小説ではテレーズの視線で描かれているけれど、映画ではテレーズからキャロルの視点に変わっていくというドット・ヘインズ監督のこだわりが、個人的には好き。愛は弱者の視点で語られる、という観点にも納得がいく。

私は弱い立場の者が、何かを乗り越えるために(それは失恋だったり痛手だったり)強くならなければならない、というシチュエーションにめっぽう弱い。ドラマの中においても、自分の人生においても。なんだかとても意味のあることに感じてしまう。弱者が強くなっていくことで愛を語る視点が変わり、少しずつ関係性も変わって、また新しいふたりになっていく。怖くて堪らないのに、初めて恋愛をしたときのような昂揚感を感じる。

キャロルの感想から少し逸れてしまったけれど、想像していた作品とは全く違い、いい意味で裏切られた。もしもDVDが出たら、私の本棚にそっとしまっておきたいな。原作の方も、このたび映画の公開に合わせて邦訳されたようなので、機会があったらぜひ読んでみたい。

何よりこの作品、1950年代の世界観が本当に素敵。作品全体を通して夜明けのような薄暗さがあって、雪が似合う。家具や小物のくすんだ色合い。当時の空気や匂いまで感じ取れそうなぐらいなので、ファッションや小物にも注目してほしい。いや、注目しなくとも、映画を観たらすぐにその世界観に魅了されること間違いなし。