熱帯夜

男も女も犬も子どももいる世界で過ごす、私、miraの物語。

自由と不自由を行き来する

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先日、祖母に出張のお土産を届けるために出かけた。
21時。夕食を終えて、テレビを見ながら過ごしているプライベートな時間かもしれないと、少し遠慮がちに門を開いた。いくら親戚の家でも18時を過ぎると人の贅沢な時間を邪魔してしまうようで、怯んだ気持ちになるのは昔から変わらない。

訪ねると、祖母と一緒に暮らしている叔父が出てきた。
こんな時間に誰も訪ねてくるはずがないと言わんばかりの、家用の格好で。白いタンクトップに、トランクス。この人にとって、私はいつまでも小さな姪なのだろうか。下着姿を見られても、一向に構わないといった雰囲気をまとったまま、特徴であるどこかぼんやりとした表情で歓迎し、私が用事があると言うと祖母を呼びに行ってくれた。

いつもここで、帰りたいと思ってしまう。

毎年、祖母の老いを実感しに行っているようなものだからだ。
私が大好きだだった、弱いフリをして本当は強い意志を持って生きているおばあちゃん。背筋が真っ直ぐで、眼鏡が上品でかっこよく、私のすることをなんでもかんでも無条件に褒めてくれるおばあちゃん。私にとってはたった一人のおばあちゃんで、いつでも味方でいてくれるのだと信じて疑わなかった。大人になって、私たち孫にどんな期待を持っているのか、両親たちとはどんな関係にあるかを知ってしまっても、やはり結局私は彼女の孫であり、いつまでも強くてかっこいいおばあちゃんでいてほしいのだ。

出てきたのは、叔父の声に就寝の邪魔をされてしまった弱々しい祖母の姿。
寝入りばなを起こされたばっかりに、めがねをかけるのも忘れてしょぼしょぼの目で光を遮るように瞬きをして階段から降りてこようとするところだった。起こしてしまった原因は私であると気付いたとき、時を巻き戻したくなった。

なんでこんな時間に訪ねてしまったのだろう。

白内障緑内障を併発しており、ほとんど目が見えなくなっている。そんな祖母が、なぜ階段から降りてこようとするの?今までは1階の畳の部屋で眠っていたのに。階段から落ちたらどうするの?誰がおばあちゃんを2階の洋室に押し込んだの?今にも落ちてしまいそうな足取りを見て、毎日どんな風に上り降りしているんだろうと、心臓が不安でドキドキしたまま、私から素早く階段の1番上まで迎えにいった。

結局その階段の踊り場でお土産を渡したけど、寝起きすぎて反応が上手くいかない様子に、本当に申し訳ない気持ちになった。私が家を出たことを、知らない祖母。こんなに近くに住んでいるのに、毎年お正月とお盆、そして私がこのお土産を持ってくる時にしか顔を見せなくてごめんなさい。もういい加減、結婚の話を出さずにはいられない年齢になってしまったんだなぁと、寝言のように良い出会いを促す祖母の表情を見ながら思う。祖母の目には、私のこの表情はどう映っているのだろう。病気のせいでほとんど見えないばかりか、ものが二重になって見えると言っていた。小さい頃の私のままの表情を脳内であてはめながら孫の結婚の心配をしてくれているのだろうか。

私が今の仕事の説明をするには、遠すぎると思った。
結局、帰りには階段をおぼつかない足取りで降りていき、かばんの中から財布を取り出して千円を私に握らせた。そうすることしか知らないみたいに。そのお小遣いを、どんな顔をして受け取ればいいのか分からなかった。30代でも孫は孫?それともやっぱり、さっき歳を聞いたくせに私は10歳ぐらいで成長が止まっているのだろうか。祖母の中に生きる私は10代だったり30代だったり、そのときそのときで変わるらしく、それに合わせた感情で接することが、なんとも子どもじみた気持ちにさせられた。こうやって大人に合わせてこの家で過ごしてきた。今は自由を手にした大人だというのに、この場所にくるだけでこんなにも不自由になる。

私を寝間着姿で外まで送り、庭の街灯までつけてくれた祖母。また家の中に戻って、このあと果たしてまた眠れるのだろうか。階段を、落ちずに上れるのだろうか。私がお土産に渡したお菓子は、いつどんな風に食べられるのだろうか。私は自由になったから、知ろうとしなくていいのだ。きっと。