熱帯夜

女として女に愛され愛したい

【読書感想】『キャロル』パトリシア・ハイスミス 著

素晴らしい映画を観た後に、原作が翻訳されたということを知り、やっと読み終わりました。わたしにとっては久しぶりすぎる、恋愛小説。しかも、長編の。読み応えがありました。映画には"レズビアン"という単語は一言も出てこないし、この本にも一言も出てこないんだけど、あとがきとか序文にはきちんと"レズビアン小説"と出てくるのね。

でもレズビアン小説かそうでないかなど、本当にどうでも良くなるぐらいにふたりのやりとりが丁寧に描かれていました。誰かが誰かに惹かれて恋に落ちる、そんなひとことで片付けられるほど簡単な内容ではないけれど、その部分の確かな描かれ方は、映画のキャロルと通ずるところがあって安心しました(変なの、こちらが原作なのにね)。

人に惹かれること。それに抗うことなんかできなくて、言葉では説明できない。確かにいつの時代にも、どの場所にも同性愛者はいたんだと、本物の恋愛小説を読んで穏やかな気分にもなりました。キャロルやテレーズの考え方、そして周りの男性達の発言からも1950年代は、日本の数年前と同じように、偏見と差別が蔓延っていたことがよく分かります。そんな中、出逢ってしまったふたり。一時はどうなることかとハラハラしたけど、良かった。本当に大事なものが何かなんて、本人たちが1番よく分かってるよね。

日本ではLGBTという言葉が出てきて、今ではブームを越え、一部の自治体でパートナーシップ制度も着々と広がりを見せているけれど、それでもまだ"禁断の○○"とか"アブノーマルな世界"とか言われる時代は続いています。偏見、同性愛嫌悪が蔓延っています。

自分の娘が同性愛者だったら、両性愛者だったら、自分の親が、きょうだいが、隣にいる友人が……。もしそう思って焦りを感じたとしても、こんな純粋な恋愛小説が世の中にあるのなら、同性であっても誰かに惹かれて一緒に生きていこうとする彼らを応援してくれる人が増えるのかもしれないと、少しホッとしたのは言うまでもありません。

個人的に「世の中にはいつでもすっきりしないことはあるものよ、ダーリン」と、キャロルが初めてテレーズのことをそう呼んだ瞬間にキュン!ときて、試しにパートナーをそう呼んでみたら「ヤメロ。その呼び方」と怒られました。へへ。だって綺麗で麗しいキャロルが、可愛らしいワンピースが似合う年下の女の子にダーリンだなんて。あまりに似つかわしくない呼び方をしているのがすごくアンバランスでキュンときたんだもん。

キャロル (河出文庫)

キャロル (河出文庫)